「奴隷船」に乗って国境越え

「奴隷船」に乗って国境越え

 エジプトとスーダンは大部分が陸地で繋がっているにも関わらず、両国の国境をまたぐ道路は存在していない。従ってエジプトからスーダンへ陸路で入国する手段はフェリーに限られる。(*2014年1月現在)

 このフェリー、週に1本しか運航しないために激しい需要過多の状態で、運航の度に国境を行き来する人々が船の許容量を超えて乗り込む。彼らの多くが国境を越えて商売を行う商人のため、通常の身の回り品に加えて大量の食料品や生活雑貨、電化製品などが船に詰め込まれる。

 客室や座席も一応用意されてはいるものの、それを遥かに上回る数の人が乗船するため、「人がいるべき場所」に陣を取ることができる人は極僅かであり、多くの人が座る場所も眠る場所も荷物と同様に甲板の上となる。当然そこに雨風を凌ぐものは一切ないため、17時半の出航にも関わらず早朝から客室という唯一の逃げ場をめぐる熾烈なポジション争いが繰り広げられる。しかし、フェリー出港当日にやっとスーダンビザが発給され、出航間際にフェリーに乗り込んだ僕に、横になって眠れるだけのスペースなど当然ない。中央線の通勤ラッシュを超える圧迫感で何もできないまま押し込まれ、甲板の片隅で人ひとり分のスペースすら確保できずに貴重品バッグを抱え眠れぬ夜を過ごした。

 このカオスさと過酷さからこの国境越えのフェリーは「奴隷船」と称され旅行者に恐れられている。